愛しいオムライス
幼い頃から、オムライスが好きではなかった。
チキンライスより白いご飯が好きだし、
卵は黄身より白身が好き。
たいして好きじゃないもの二つの組み合わせを、
愛せるはずがない。
ただ、オムライスを美味しそうに頬張る女の子は、
可愛いと思ったから、
二十歳(はたち)を過ぎた頃から、
たまに食べるようになった。
特に男の人の前で、満面の笑みで。
「オムライスを幸せそうに食べるわたし、
すっごく可愛いでしょ?」
なんて考えながら頬張るオムライスは、
全然美味しくなくて、
オムライスという食べ物が、
どんどんどんどん苦手になっていった。
数ヶ月前のあるお昼、仕事の打ち合わせの合間に、
ひとつ年下の男の子とオムライスを食べる機会があった。
隣で元気にオムライスを頬張る彼は可愛くて、
わたしは自然と笑顔になっていた。
作り笑いではない笑顔でオムライスを食べるのは、
何年ぶりだろう。もしかしたら人生かもしれない。
ちょっと残してしまったオムライスは、
彼が「いいんですか?」と言いながら、
なんなくたいらげた。
オムライスが愛しい食べ物になった日だった。
東京 銀座『喫茶YOU』
ランチセット(オムライス)1,100円