小籠包な彼
その日はとても雨が強かった。
足はびちょびちょ。
髪も濡れてぺったんこだし、 化粧も落ちかけてる。
そんな、普段なら不機嫌になっている状況でも、
私が笑顔でいられるのは、隣に大好きなひとがいるから。
彼のほうをチラッと見るたびに、私の視線に気づいて微笑んでくれる。
トイレの鏡に映った変な色の雨ガッパを着た自分を見て、
「今日のわたし全然かわいくない!」
って、ひとり膨れっ面にはなったのは秘密。
だって好きなひとの前ではかわいい姿でいたいんだもん。
お腹がへった私と彼は、
近くにあった台湾料理屋さんに入った。
私たちは2年半という期間、
ただの会社の先輩後輩関係だった。
年が近いこともあり、
お互いの恋愛話も沢山していて、
私は彼の話を聞きながら
「薄っぺらいねーー、だからダメなんだよー」
なんてケラケラ笑っていた。
しばらく待っていると、ほかほかの湯気を立てた小籠包が運ばれてきた。
レンゲに乗せフーフー冷まして、口に含む。
皮が薄くて、すぐに中の肉汁がジュワっと溢れてきた。
豚肉もジューシーでおいしかった。
表面は薄っぺらいけど、
中には具がしっかり詰まっていて、
おいしくて、そしてあたたかい。
小籠包の中身がどうなっているかなんて、
口に入れて噛むまでわからない。
私は彼と深く付き合うようになって、 その内面を知った。
薄っぺらいのは見かけだけ。中身はすごいんだよ。
他の女の子には食べさせないんだから。
小籠包を食べながら、にやにや微笑む私がいた。
そんな私を見て、彼も微笑んでいた。